2009年11月4日水曜日

球場内外の懲りない面々


假球とも放水とも言う漢字がシーズンオフの台湾棒球(=野球)を締めくくる恒例の季節となりました。
漢字の意味するところはいうまでもなく八百長のこと。

今年の八百長事件は20年目を迎えた台湾球界の創設メンバーでもあり台北をフランチャイズとする人気球団の兄弟エレファンツが主体となっているだけに衝撃は大きく、メジャーでも活躍した曹錦輝、西武ライオンズに在籍し日本のファンにもおなじみの張誌家らの人気選手も事情聴取されるなど、連日台湾メディアのニュースをにぎわせているような次第。
兄弟以外にもすでにLa New,興農球団にも捜査の手は広がりすでに賭博の主宰者6名が逮捕、4名の選手が関与を認め、事情聴取される選手は30名にもおよびそうと拡大の一途をたどっています。
11月3日には事件の関与を疑われた元阪神の中込伸前監督が桃園空港で帰国寸前に拘束され手錠をかけられ板橋地検に連行(本人は潔白を主張、すでに保釈中)されてしまい、ついに日本の野球人までが巻き込まれるという最悪の事態に発展してしまったのであります。まさに馳星周の小説『夜光虫』を地で行くような世界ですが、恒例といったのは昨年もシーズンオフに米迪亜ティーレックスというチームが球団ぐるみで八百長をしていたのが発覚したばかりで、球団も今シーズンから4球団まで減って出直したばかりだったので、“またかよ”とこの手のスキャンダルには慣れっこの台湾の人たちでさえあきれるわけです。

20年の職業棒球史を振り返っても96年に選手の監禁脅迫事件(口の中に拳銃を突っ込まれて八百長を強要されたそうな)、97年には人気球団の時報イーグルスが主力選手による八百長が発覚し球団消滅に追い込まれ、99年には疑惑のあった味全ドラゴンズほか三商タイガースが経済的理由で撤退したことにより2リーグ11球団が1リーグ6球団に統合され再スタート、そして前述した昨年の米迪亜ティーレックスの事件と、本当に恒例といってもいいぐらい連続してスキャンダルに見舞われてきました。
昨年の事件は、経営難で身売りした誠泰コブラズを買収したのが実は暴力団だったという笑えないオチで今シーズンはいよいよ4球団まで減ってシーズン前はリーグ自体存亡の危機と言われたものでした。
ところが、ファンの献身的な応援、特に馬英九総統夫人が台湾シリーズ(前後期優勝チームの決定戦)で兄弟の応援に駆けつけるなどの話題もあって人気回復したか、と思われていただけに、もはや救いがたい状況に陥ち入った感があります。

八百長→人気凋落→球団の収入減→選手の給与カット→八百長とまさに負の連鎖がなぜ繰り返されてしまうのか、誰だってこんな簡単な図式には気づきそうなものですが、もうこれは華人社会の博打好きのDNAがなせる業、わかっちゃいるけどやめられないとはこのことなんだろうなあ。
台湾には公営のギャンブルはこのDNAゆえか為政者からは禁じられており、一時は日本からのパチンコが人気になったことがあったけど射幸心をあおるということでほとんどの地区で条例で禁止されてしまっている状態で確かにガス抜きできない中、プロスポーツが賭博の温床になるのはある意味やむを得ないのかもしれません。

もうひとつの側面が、台湾に、いや中華社会全体に巣くう黒社会の存在。もともと反清復明を標榜する秘密結社に端を発する“帮”が政治、経済の中枢にも入り込んだ歴史を持つだけに一朝一夕には消えることがない。特に台湾では地縁血縁が深く、長く国民党政権と持ちつ持たれつの関係が続いてきただけにその根は深いようです。今回の八百長を仕組んだのもすでに逮捕された胴元の証言から台湾の三大暴力団(竹聯幇、四海幇、天道盟)のひとつ四海幇に連なる雨刷グループの犯行ということが判明しています。彼らは本当に日本のような単なるアウトローといったレベルにとどまらず、政界や経済界、メディアにいたるまで入り込んでいて今日的にも常に国家的な問題として繰り返し浄化が叫ばれているもののとんとその実効があがったためしはないといえましょう。

このように台湾の八百長事件は単にプロ野球球界だけの現象ではなく、台湾社会全体の問題でもあるといっても過言ではないでしょう。このままでは本当に台湾のプロ野球も消滅の道をたどるかもしれません。国際的にも才能ある選手たちを輩出してきた野球文化の国ですから、このままでは現役の選手たちはじめ将来を夢見る野球少年たち、多くのファンたちの夢を摘む結果になりかねません。
なんとか、この危機を克服し、健全なプロリーグの再編を祈らざるを得ないのですが…。