2008年10月26日日曜日

メモリー・オブ・台湾  高雄/愛河


10月17日、JL657便で高雄へ行く。
10月とはいえなんといっても高雄は北回帰線の南側。純然たる熱帯に属しているのでやはり暑いのである。さすがに真夏のような強烈な日差しではないものの摂氏32度は下らない。

そんな熱帯の都市のど真ん中を、なんともいえぬ美しい大河が流れている。
その名も<愛河>。
日本統治時代は高雄川と呼ばれていたが、戦後になって蒋介石が宋美齢夫人の誕生日を祝し<仁愛河>と改名させ、それがいつしか<愛河>と呼ばれるようになって定着してしまったらしい。
ロマンチックな呼称にたがわぬように夜は川に架かる橋がライトアップされ、恋人たちが川べりの遊歩道をそぞろ歩く。最近では遊覧船で河を巡る<愛河>クルーズも人気があるそうだ。

いまでは高雄市民の誇りともいえる綺麗な河だが、つい何年か前までは東京の隅田川同様に工場排水や家庭用排水で汚染され、<愛河>という名にこれほど似つかわしくないというドブ川だった。熱帯だけに匂いも強烈で周辺の家では窓も開けられないほどだったという。それを市政府が何とか浄化をと音頭をとってやっと現在の姿まで回復したというわけである。

深夜の到着だったが、ホテルに荷を降ろしてさっそく<愛河>に会いに出た。5年ぶりの再会だったが七色のライトが漆黒の流れに溶け込み、変わらぬ美しさで迎えてくれた。

2008年10月6日月曜日

中秋節はどんなことがあっても焼肉だぜい

中秋節(農暦8月15日)といえば中国三大節句のひとつで、正月に続く中華社会の一大イベントである。家族や親しい人が集まって月餅を食べたり麻雀したりというのが一般的な楽しみ方なのだが、こと台湾においてはちょっと独自の習慣がある。
何年か前の焼肉のたれのCMから端を発し、中秋節はバーベキューというのが全土に普及し今では無くてはならない台湾の秋の風物詩になってしまったのである(日本のバレンタインデーのチョコと同じですな)。家や店先の前で、マンションのベランダや屋上で、この日ばかりは台湾全土が肉を焼く煙で覆われてしまうといっても決して言い過ぎではない。スーパーでは1週間前ぐらいからBBQセットのコーナーが設けられ、炭が飛ぶように売れまくり、本当に老いも若きもこの日の焼肉パーティーを心から楽しみにしているのである。

2008年の(農暦は毎年変化する)中秋節は9月14日。このいまや国民の楽しみと化したバーベキュー行事に対して今年はなんと政治が介入してきたのである。
新総統となった馬英九が、こともあろうか排出二酸化炭素削減のため屋外のバーベキューを禁止するという条例をかざして規制措置をとってきた。環境問題を重視すると言うパフォーマンスは多くの国民の支持を得たのだが、“なにもみんなの楽しみに水をさすこたあ無いだろう”と国民にとってはKYとしか思えない布告に対しいっせいにブーイングが上がったのは当然だった。
公共の公園とかの場所の貸し出しは凍結され、総統自らがメディアで呼びかけたのだが、一般の庶民はどこ吹く風、止められるものなら止めてみろと多くの人が意に介せずにバーベキューの準備をしていたようだ。これがタイやビルマだったら大デモにエスカレートし一触即発の事態に発展するのは間違いないだろうw

ところが国民にとってはもっと大きな障害が待ち構えていた。今年最大の台風13号の襲来である。
台湾の台風はちょっと半端ではない。出来立てほやほやの強力なやつが容赦なく襲ってくる。道路は河と化し、倒れた樹木が道をせき止める。高速道路は下界から避難してきた車の臨時駐車場!となってしまうのである。
小生もこんなアンビリーバブルな事態を駐在時代にも何度か経験した。締め切ったマンションのサッシから水が溢れ、一方でガス管を伝わって雨水が容赦なく部屋に入り込み、一晩中浸水と戦ったことがある(5階なんだけど)。官の介入にてぐすね引いていた国民も自然の驚異には勝てず、恨みの雨の休日となってしまった。

みんなさぞかしがっかりしたのかな~と思っていたが、ところがどっこい。横殴りのあの強烈な風雨の中でも多くの人たちがバーベキューを強行したと台湾の知人も笑って電話してきた。YouTubeを見てみればあるわあるわw
こんなに苦労してまで焼き肉くいてーか!?
死者5人、行方不明10数人。多くの犠牲が払われながらもバーベキューは死守されたのであった。
あらためて台湾の皆さんの食い意地とパワーに脱帽である。

2008年9月6日土曜日

鳥かごがなくなる? マカオ


この夏、嫌というほど見た建物はなんといっても北京の“鳥の巣”(人民体育場)だが、マカオを代表するカジノ『リスボア』(葡京飯店)は“鳥かご”とよばれ1970年に建築されて以来、38年もマカオのランドマーク的な建物として知られてきた。

マカオは中国返還以降、中国政府の江南デルタ経済特別区構想の下で東洋のラスベガス化が大規模にストラクチュアリングされており、ユダヤ資本のサンズ、ベネチアンの進出を皮切りに大型カジノが続々とオープンし凄いことになっている。昨年2度ほど取材でサンズを訪問したが24Hオープンの巨大カジノに大陸からの金持ちを満載したバスが次々と横付けされ、ばくち好きな中国人たちが目を血ばしらせながら「バカラ」や「大小」のテーブルに押しかける姿にドン引きした。

『リスボア』は従来のマカオのカジノ王スタンレー・ホーが経営する老舗だが、ラスベガスから進出した巨大なカジノ群の出現ですっかり霞んでしまっていた。しかしミスター・カジノの名をほしいままにしてきた大富豪が手をこまねいているわけが無い。『リスボア』に隣接して新しい『グランドリスボア』(新葡京)を昨年建設し(カジノは既に営業しているがホテルは今年中にオープン予定)対抗手段に打って出た。これがまたド派手な建物で世界遺産の多いマカオ旧市街の景観を著しく悪化させた、と個人的には思うのだが派手なら派手なほど金が舞い飛ぶのが中国クォリティというものなのかもしれない。

そしていよいよ『リスボア』本体も立て替える計画が進められていて、現在6社で設計のコンペ中だそうである。“鳥かご”として親しまれてきた外観を残すか残さないのか、6社の設計ではまったく排除したものと2分されているとのことである。
前回マカオに行ったとき、この旧い『リスボア』を覗いたが、昔の暗黒街の賭博場といった趣がなんとなく残っていて、高級娼婦なども人ごみの中を回遊していたり、背徳の殿堂といった隠微さが何ともいえず味があった。戦前の上海の『大世界』なんかもこんなイメージだったのだろうとしばし空想の世界に浸っていたものだ。
日本のビルの再開発も大体が味気ないものになってしまうので歴史的建造物はその原型をあまり崩して欲しくないと個人的には思う。ましてや隣の『グランドリスボア』をみるとまたぞろ景観を台無しにするものが出来る可能性が高いのでマカオ旧市街の旧い町並みを愛するものとしてすごく不安に駆られる。

ともあれ現在の『リスボア』はおそらく『グランドリスボア』のホテルがオープンし次第、営業は休止される予定なので、機会があれば“鳥かご”消滅前に、もう一度訪問したいと思っている。